私は、文京区本郷で曾祖父母が創業した会社で賃貸マンションを経営しておりましたが、この度滅びゆく伝統芸能の「未来を変える」べく、伝統芸能に特化した劇場設立を決意し、自社ビルを売却してこの劇場建設を決意しました。
当団体理事が長唄関係者なので、衰退の一事例として、長唄という三味線音楽の現状についてお伝えしたいと思います。
長唄は、今から三百年以上前の十八世紀初めごろに歌舞伎の音楽として成立し、主に江戸で発展してきた三味線音楽です。1974年に重要無形文化財の指定を受け、歌舞伎を支える代表的伝統音楽の一つとして現在に至りますが、演者の高齢化やあまりメディアに登場しないこともあり、演者も観客も大幅に減少している状況で、50年以内に芸の伝承が途絶える可能性があります。仮に数少ない演者が残っても、高いレベルの演奏は見込めない状況です。
長唄だけでなく、多くの伝統芸能で同じような状況に瀕しています。
そこで、私は九段下に新たに伝統芸能演者の意向を最大限に活かした劇場を造り貸し出すことで、多種多様な試みを実現でき、また当社独自で新しい演目を公演することで、観客と演者のすそ野を広げていくことを目指しました。
伝統を守るには、新しい活動が必要、歩みを止めないことが大事といいます。 その歩み、活動の場を提供したいという思いで、この事業を手掛けることといたしました。
尊敬する師匠、先輩への感謝と、いま活躍されている皆さま、また、これからこの世界を目指す新しい担い手へのエール、そしてなによりも伝統芸能を愛する一人として、自社、個人の全資産を投じて伝統芸能に特化した劇場建設を実現し、日本文化継承の一端を担える劇場となっていくように、大きな責任と使命感を持って取り組んでいく覚悟でおります。
一般社団法人 九段下劇場
大木 梨恵 (望月 初寿恵)